オーヤと呼ばれた男は黒い目をしており、同じ色の短い髪を天に向かって立たせている。 手首を内側であわせると私に向け、攻撃体勢を取った。 声を低くする。 「飛翔、どけ。その女を殺す」 「憂理は、アルマに利用されただけだ」 飛翔は私を背にしてオーヤから守る。 オーヤは私から目をそらさない。 「その女は町の大小を問わず破壊を繰り返してきたんだぞ。一万人以上が住む町と家財を失った。家族や土地と引き…
敵というのは、我々、アルマ帝国の統治に従わない者たちのことをさす。 もっとも厄介なのが、イシュリンという人物だ。 年齢は、アキと同じで二十歳。 五年前、皇帝が自らを信仰の対象とするために神殿を廃止した際、逃れた最後の神官だった。 以来、“抵抗する者たち”――レジスタンス――を集めて指導者となり、ネイチュの大部分をしめる深い森の中に拠点を置いていた。 神官は神と対話する立場にあり、特別…
ーーー あれから、どのぐらいの時が過ぎたのだろう――。 私はここでの生活に慣れるよりも早く、魔力についての知識をすべて身につけた。 それは、この世界ネイチュでは呼吸をするよりも大切なことだった。 すべての魔力の基本は魔法陣だと教えられた。 まずは、攻撃したい対象を中心にして円を描く。 これでタ-ゲットにされた存在は、その場から動けなくなる。 次に、その一メ-トル外側へ円を描くこと…
飛翔は私と同じ高一で、意志の強い目が印象的なイケメンだった。 スポーツは何でも得意にしている。 何より性格がいい。 裏表がなく、誰と接しても態度を変えることはない。 思いやりがあり、とても優しかったが、正義感は人いちばい強く、曲がったことに対してとことん立ち向かう勇気があった。 やがて、クラスの女子のあこがれの的になった飛翔は“理想的な王子さま”と噂されるようになった。 何かが起きた…