◆異世界で闇落ち妃になった私は処女のまま正義と戦いあの女に必ず復讐する

◆高1で16歳の憂理(ゆうり)は同級生・愛流(あいる)の罠にかかり呪いをうけ異世界ネイチュへ送られる。その復讐のためにネイチュを支配するアルマ帝国の皇太子アキと形だけの結婚をする。

8.私は復讐を忘れない(1)

 鉄の手錠を自分で外すことはできない。


 私はそれで魔力を封じられていることもあり、牢のような場所へ閉じ込められはしなかった。


 神殿の横に小さな家を与えられた。和風の建物で畳が敷かれ縁側まであった。


 そこに腰掛け足を下ろし、ぼんやりとドームの天井を眺めていると、日が暮れていく。


 今朝、私は破壊するために人のいない町を歩いていた。それが、一日の終わりにはドームの中にいる。予想外の展開に気持ちがついていかず、現実が夢のように思えた。


 傍らのランプを灯すと、飛翔が表から回ってきて隣に腰掛けた。


「まだ手錠は外せないって」


 気落ちしている。
 私は足元を見つめる。


「自分がやったことを思ったら仕方がないよ。許されて受け入れてもらっただけで、十分ありがたいから」


「憂理に知ってもらいたいことがあるんだ」


 飛翔は前置きすると、話し始めた。


「ここ、リバティーでは、八百人が穏やかに暮らしている。住む場所を失い、身寄りがなくし、飢えや病気で苦しんでいたところを助けられた者たちも多い。おれもそうだった。元の世界からここへ送られ憂理と離れたあと、森の中で気を失っていた。それをオーヤが見つけてくれた」


 ごろんと寝転がってプルシアンブルーの空を眺める。


「元々、ネイチュの人々は平和に暮らし、魔力を活かして生活してきた。けれど、魔力が強かったアルマ一族は、魔力で人々を支配していった。帝国を築きネイチュ全土を手に入れようとしている。とても乱暴なやり方で」


 私は黙って話を聞いている。


 飛翔は続ける。


「ネイチュの森は、昔はこんなに深く大地をおおうものではなかった。魔力が誤って使われているからどんどん森が膨れ上がっている。木々の高さも百メートルを超えてしまったし、森の面積も耕地の五倍になって人々の生活を脅かしている。ネイチュの神が怒っているからだ。神の怒りを鎮めないと、この世界は森に沈んでしまう」


 目つきを険しくをする。


「人々がアルマの命令で連行されて、町や産物を作らされているのは真逆だ。アルマは魔力を支配や破壊に使うことをやめて、異なった存在とみているレジスタンスを受け入れ、帝都を解放するべきなんだ」


 そして、深く息を吐いた。


「イシュリンは無抵抗の者を殺したりしない。たとえアルマであっても。だから、ネイチュの人々は、必ずまた平和に暮らせるようになる」


 私は飛翔の考えがよくわかって悲しくなった。


 飛翔から目を移してドームの高い天井をまた見上げた。


「アルマがネイチュのすべてを支配したら、輝く魔法陣が現れ、元の世界へ通じる道ができる。そう教えられた」


 その世界をつかもうとして繋がれた手を空へ伸ばす。


「それができるのは皇帝だけ。アキが皇帝になったら輝く魔法陣が現れる。私は愛琉に復讐できる」


「その話は二度としないでくれ!」


 強く言葉を重ねられた。
 飛翔は素早く体を起こした。


「復讐なんて。愛琉はもう関係ない」


 語気を荒げる。
 そして、悲しい目をする。


「憂理。そんなことでは、いつまでたっても手錠を外してもらえない。おれは……。どこであろうと憂理がいてくれたらそれでいいんだ」


「……飛翔は何もわかっていない」


 私は手を下ろさずにいる。


 飛翔は黙り込む。


 衝動的に私の腕をつかんで体を押し倒すと、上に乗ってきた。


「憂理は本当に処女なのか?」


 そのまま押さえ込まれた。





 〈続く〉
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