◆異世界で闇落ち妃になった私は処女のまま正義と戦いあの女に必ず復讐する

◆高1で16歳の憂理(ゆうり)は同級生・愛流(あいる)の罠にかかり呪いをうけ異世界ネイチュへ送られる。その復讐のためにネイチュを支配するアルマ帝国の皇太子アキと形だけの結婚をする。

7.イシュリンとの対面

 ワイクが裸足になり、神殿の前にある長い木でできた五段の階段を上がり、木の床に立つ。
 すだれを両手で分けた。


「イシュリン、“破壊の妃”を連れてきた」


 呼びかけられ、その人物が立ち上がった。


 こちらへ来る。
 私は口の中が乾く。


 その人物は、すだれを開け待っているワイクに、


「ありがとう」


 と、まず礼を言う。


 飛翔がそっと私を押し出す。


 前に立たされた。
 頭が押さえつけられたように顔が上げられなくなった。


 私は人々を抑圧してきた。


 今ここで殺されるかもしれない。


 だが、


「大丈夫」


 と、優しい声がかけられた。


 恐る恐る彼を見た。


 イシュリンは、物腰の柔らかい、ごく普通の若者だった。


 草色の細かな髪を顎の長さで切ったレジスタンスの指導者は、青空のように澄んだ穏やかな目を私に向けてきた。


 神から下された特別なチカラを使う神官、という“気”はなにも感じない。
 ただ、静かで心地よい風をまとっているだけだった。


 想像と、まるで違っており、私はたじろいだ。


 我々はいくら激しい攻撃をしかけたところでこのドームを傷つけることはできなかった。
 それほどのチカラを持つからには、もっと屈強で恐ろしい男なのだと思っていた。


 イシュリンは素足で階段を降りて、私の前に来る。


 手を取り、


「こんな手錠をかけさせてすまない」


 と、目を見て謝られた。


 私はなじられると思っていたにも関わらずいたわられ、唇を噛み、こらえたが、どうしても涙があふれた。


 飛翔がそれを見て彼に踏み出す。


「イシュリン、憂理のしたことは……。許せないかもしれない。けれど、憂理には憂理の事情があったはずなんだ。どうかここに置いてやって欲しい。おれでつぐなえることがあるのならなんでもするから」


 身振りを交え、必死に訴えた。


「この少女は飛翔の幼なじみだと聞いた」


 イシュリンは飛翔に気持ちをそわせる。


「私たちで保護しよう。魔力の使い方も、それに頼った生き方も、間違いだったとわかるはずだ」


 私にまた目を戻した。
 安心させようと肩に左手を置く。


「私がきみに危害を加えることは決してない。誰にも危害を加えさせない。きみを守り、ここで静かに暮らせるよう援助する。アルマの道具にされ、町の破壊のために利用されることももうない」


 私はうつむいて目を閉じる。


 飛翔は安堵し、彼の右手を両手で握った。


「ありがとう、イシュリン。ありがとう」


 イシュリンが離れると、私に向き直りしっかりと抱きしめてくる。


「憂理、よかった。また一緒にいられる。一緒に育った子供の頃に戻れる。同じ世界にいるのに、ひとりぼっちだなんてことはなくなる」


 飛翔は声をつまらせたが、私は、ふたりでいられるのは今日の一夜しかないことを寂しく思った。






 〈続く〉
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