ーーー 夜明け前に目覚め、私は与えられたすみかの外に出た。 まだ暗い足元に気をつけながら神殿の前へ行く。 高台の端から見下ろす。 家々はまだ眠っていた。 空が白みはじめる。 「最後の朝寝を楽しむといい」 私はゆっくりとその場にしゃがんだ。 イシュリンは魔力に頼らない生き方を説いており、ドームの中では魔力を使わない生活が見られた。 しかしながら、強い魔力を持つものは相当数いると感…
ーーー その頃、神殿の一室では灯したランプを床に置き、イシュリンとワイク、オーヤの三人が車座になり善後策を練っていた。 オーヤはイシュリンに迫る。 「イシュリン、あの女は受け入れずに追い出すべきだ。おれはどうしてもあの女を信用できずにいる。アキは形だけの結婚でも“囚われた妃”を取り返すため必ずここへ来る。あの女はおれたちに災いをもたらす」 ワイクもイシュリンに額を寄せた。 「飛翔と結婚さ…
「飛翔、離して」 飛翔は私のつながれた両手首をつかみ頭上に置く。 私の左手の薬指には金の指輪が光っている。 「おれと憂理の間には、誰も入れないはずだ」 「やめて」 「やめない」 視線を外さずにいる。 「こんな指輪ひとつで憂理を奪われるなんて、おれは認めない……!」 私の服装はもちろん以前と変わっている。 桜色のシルクのワンピースは首の下で少し切り込みが入り、ネックレスのひと粒のダイヤが…
鉄の手錠を自分で外すことはできない。 私はそれで魔力を封じられていることもあり、牢のような場所へ閉じ込められはしなかった。 神殿の横に小さな家を与えられた。和風の建物で畳が敷かれ縁側まであった。 そこに腰掛け足を下ろし、ぼんやりとドームの天井を眺めていると、日が暮れていく。 今朝、私は破壊するために人のいない町を歩いていた。それが、一日の終わりにはドームの中にいる。予想外の展開に気持ち…
ワイクが裸足になり、神殿の前にある長い木でできた五段の階段を上がり、木の床に立つ。 すだれを両手で分けた。 「イシュリン、“破壊の妃”を連れてきた」 呼びかけられ、その人物が立ち上がった。 こちらへ来る。 私は口の中が乾く。 その人物は、すだれを開け待っているワイクに、 「ありがとう」 と、まず礼を言う。 飛翔がそっと私を押し出す。 前に立たされた。 頭が押さえつけられたよう…
素朴な土の道を私は飛翔について歩く。 畑や家畜の世話をする小屋を過ぎ、石垣に突き当たり、左に折れる。 家々が建ち並ぶ中に入った。 レンガや石や木や土で出来た二階建ての家が両側に続く。 家と家の間は二階部分で紐を渡し、洗濯物が乾かされ、軒先には野菜が吊るされ干されている。 家の前ではテーブルを出し、年寄りの男が数人コーヒーを飲みながら語り合ったり、老女は編み物をして日向ぼっこをする。 …
私は飛翔たちに連れられ無人の町から離される。空を浮遊して移動した。 深い森が足の下になり、さらに進むとうっすらと光る巨大なドームが見えてきた。 そのすぐ手前で地上に降ろされた。 間近で見ると、頼りなさげに薄く張った膜がドームの正体だった。 我々が破壊しようと何度も激しい攻撃を加えたにもかかわらず、どうしても壊せずにいたものがこれだ。 私は飛翔に手をとられ、前後をワイクとオーヤに挟まれ…